ロバート L.フォワード 竜の卵

竜の卵 (ハヤカワ文庫 SF 468)

竜の卵 (ハヤカワ文庫 SF 468)

ネタバレない概要

ほんの数日間のファーストコンタクトの様子を書きながら、同じ時間に進んでいく、外宇宙文明の歴史小説でもある奇妙なSF。
それを実現させるために、人類の100万倍の速度で生きる「チーラ」とよばれる中性子星人が登場。
彼らの一生が人類の15分であるため、直接のコンタクトはほぼ不可能であるが、それでも互いを理解するために行われる通信。
そして、ついに10秒間の物理的なファーストコンタクトが実現する・・・。


「チーラ」が数日の間に狩猟採取生活から高度に発展していく様子や、彼らの宗教観に地球の調査船が与えた影響、そして苦難を乗り越えてのファーストコンタクトなど楽しめる見所が多い良作。
なんというか、箱庭系ゲームの過程を眺めるような楽しさがあり、後半の頃には、「チーラ」の歴史に感情移入している自分が居ました。


また、巻末に詳しい設定資料が乗っているのも嬉しい。
作中でよくわからない上に興味が無い事項や、絵が無くて良く理解できなかった箇所が(まだ作中よりは)理解しやすい形で紹介されていた。


もっとSFは説明図を多用すべきだと思います!

ネタバレなあらすじ

  • 地球に接近した「竜の卵」と呼ばれる中性子星への探検調査。
  • 「竜の卵」には人間の100万倍の速度で生きる「チーラ」と名乗る知的生命が存在。
  • 人類の数日間の探査中に進む、チーラの壮大な歴史。
  • 探査船そのものや、探査船からの走査レーザーが「チーラ」の宗教に多大な影響を与える。
  • 中世程度の科学技術となった「チーラ」はついに、鏡による光通信にて、人類の探査船とのコンタクトに成功。
  • 人類の知識を吸収し、急速に発展を遂げる「チーラ」の科学技術。
  • 最初の接触の十数時間後には宇宙進出に成功し、ついに物理的なファースト・コンタクトに成功。
  • 「チーラ」の科学技術は、人類を追い越し、彼らは膨大なアーカイブを人類に託す。しかし全てのアーカイブは、その科学技術が実現できないと解くことができないものであった。
  • 「チーラ」は問題の方向性だけを示し、人類に自らの力での進歩を望んでいた。
  • 最後に、「チーラ」達は太陽の不具合を改修し、100万年は地球は安泰である事を告げ、人類の繁栄を祈り通信を切る。
  • 宇宙人の無駄なセックス描写が多い。趣味?

チーラの精神構造が人類と似ているのはおかしいという点について

amazonで、「チーラ」が人類と似たような精神構造であることはあり得ないではないか、という書評をしている人が居ました。
たしかに、あまりにも環境が異なる世界で生まれた知的生命体なのに精神構造が似たり寄ったりってのは変な話ですが。
だけど、このお話は宇宙人の進歩の歴史→苦難を超えてのファーストコンタクト→そして人類を超えて良き教師となり去っていく・・・という過程を書きたくて、相互理解への困難は別に書きたくなかったから、精神構造については、SF的なリアリティは抜きでおんなじにしたんじゃないかなぁと思います。
他のSFでもそうだけど、当然ながらエンタメなので、ストーリーの都合の上では、リアリティに多少目をつぶって貰うのは必要なのでしょうね。
ただ、Amazonで書評をしている方の意見もSF者として至極真っ当にも思えます。
ファンに見抜かれる程度のリアリティ軽視もそれはそれで問題な分けで。

結論

ウソは必要だけど読者に突っ込まれないように。
ただ、度が過ぎるとただでさえ狭いSFの間口がさらに狭まりそう・・・。
なんというかシューティングゲームの歴史を思い出す。
芸術化すればするほど間口が狭くなるところが。

次の本

と、言うわけで次は精神構造が異なる所為で厄介なこととなるファーストコンタクト物を探してみます。
ミノタウロス皿」みたいな文化の違いレベルではなく、通常の会話レベルで理解できねぇ!みたいな。
何かお勧めがあったら教えてください→集合知


後、続編の「スタークエイク」も読んで見ます。
事故で落下をはじめた母船が中性子星に落っこちる45分の間に、大地震で崩壊しした「チーラ」の文明を復興して、母船を救うことができるか?
みたいな話らしい。良い意味でひどい。



そんな感じ。