グレッグ・イーガン 順列都市

読書メモの為、読んだ後の人向けです。


順列都市〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

順列都市〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

順列都市〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

順列都市〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)

概要

塵理論という架空の理論をベースに永久に消滅しない世界について、書いたSF小説
そのあと、その世界が自身が内包する世界(オートヴァース)内の知的生命体が発見した、存在論の所為で崩壊する話。

注意!

以下はかせいさんなりの解釈であります。
当然、間違え、読み違い等多々あると思いますので、よろしくです。

塵理論

特定のパターン(アルゴリズムとデータ)として存在している物は、別の場所(次元を問わず)、時間(過去、現在問わず)に1クロック後の状態として存在し得る。

作中では、

  1. 人々と世界をデータ化する。(データ)
  2. そのデータを無限に増殖可能な仮想マシン上で実行する。(アルゴリズム)
  3. その仮想マシンを特定のコンピュータで走らせる。


んで、3にて、1と2の塊を数クロック実行して、マシンを停止させる。
ただし、それは1と2の塊である世界が終ってしまう事を示すのではなく、無限の時間、空間を跨いで、1と2は存在し続ける。


何故なら、1と2のサイズが無限でない以上、nクロック後のパターンは必ず無限の空間、時間の間のどこかに何らかの形で存在するから。

疑問点とその解釈

Q1.

時間も空間も跨いでバラバラに存在するのは、既に「存在する」と言えないのでは?

A1.

作中では、データ上で存在する人が、CPUを跨いで実行させられたり、10秒分の記憶をランダム再生させられても、意識は分断されませんでした。
その為、完全に時間も空間も分断されても、主観的にはまったく問題なく存在しえると結論づけてます。
実際の所はどうだか判らないけど、主観で意識の分断を認識できない以上、上記はウソだとは言い切れないのでは?
例えば、今自分と周りの世界がいつもより遅くなったり、停止していたとしても自分は認識できないし、さらには、宇宙の時間の進行が、宇宙の外側のルールから見た場合、まったく秩序を成していないとしても、主観にはまったく影響は無いわけですし…。

Q2.

宇宙が無限でない場合、結果として取得できるパターンは有限なので、無限に生きることは不可能なのでは?

A2.

作中では平行宇宙の存在を示唆してます。
そちらでn+1クロック後のパターンが存在すれば、別に問題は無い様子。
まぁ、時間も空間も分断されても意識が存続するのであれば、空間が別の宇宙であれ何ら問題は無い…はず。別の宇宙が存在するなら。

Q3.

特定のパターンを世界から抽出して跨いで行くのであれば、全ての事象が既に世界に散らばっていると言うこと?だったら、1.と2.の塊を起動する必要すらないのでは?既に必要な世界は始まっていると取れる訳だし。

A3.

それを読み取る意識が存在しないと、パターンはただのデータの羅列である。
その為、3.にて、1.と2.の塊を起動する事でデータ化された人の意識が発生し、主観が始まる。
データの羅列は、現実世界と同じく主観によって意味づけされるので、ここで世界に分断されているパターンは意味を持つ。
その為、意識を発生させる為に1.と2.の塊の実行は不可欠。

Q4.

オートヴァースの知的生命体が、理論的に上位の世界を否定したら、なんで世界は崩壊するの?

A4.

A3.で書いたように、読み取る意識が世界を存続させている。
なので、意識の側が世界の見方を変えると世界の方が変質していく可能性を持つ。
オートヴァースの知的生命体は、自分の世界が、大規模なライフゲームでは無く、現実であると認識し、オートヴァースの側の意識からは、上位の世界は否定されました。
つまり、オートヴァースと上位の世界では、上位の世界の認識が異なってしまいました。
オートヴァース側の意識は、上位の世界は無いと認識。
上位の世界の意識は、自分が存続している世界なので、当然上位の世界はあると認識。
後は、世界がどちらの側に転ぶか。
作中では、オートヴァースの方が、上位の世界より「現実的」であるとして、上位の世界は崩壊します。
上記の解釈の場合、解釈が分かれた時点で、異なる意識の分だけ世界が、分断されるのが正解のような気もするけど…。

Q5.

結局データ上の意識が永遠を享受できるだけで、オリジナルは肉体に閉じ込められたままなのかねぇ…。

A5.

ビットのつらなりで意識を発生させているデータ上の意識も、ニューロンのつらなりで意識を発生させているオリジナルも、実行させているハードが異なるだけで大差は無いと思います。
自分の意識があると言うことは既にデータは実行済みと取れ、今は「たまたま」ニューロンの配列で時系列に意識を実行していると考えるならば、この肉体の死後もパターンは何処かの時空でn+1クロック目の状態が再現されるはずです。
そして、時空をシャッフルさせてもそれを読み取るのが意識であるならば、その意識は存在し続けると考えることが可能な筈…。

まだ噛み砕けてない辺り。

完全に数学的な「エデンの園」配置である場合、セルオートマトン上では再現不可能なため、「塵」の中に自身を見つけることは不可能なのじゃないの…?
ただ、16人のスキャンデータと人類史のアーカイブ考え付く限りという膨大でオリジナルなデータは限りなく複雑で偶然の再現は不可能と思えるけど、数学的には不可能ではない。
単に、ある程度以上複雑な配置を「エデンの園」と呼んでいるだけ?
ある程度複雑な情報で無いと、「塵」の中から自身を見つけ出せない理由も良くわからない…。
多分あまり複雑で無いと、同様の情報がありすぎて拡散してしまうとかかねぇ…。
作中では、やってみたらそうだった的な感じでごまかしているけど。

似たような話

玩具修理者の中の「酔歩する男」では、人間が現在の状況を時系列に沿って理解できるのは、脳による認識の力だという設定でした。
脳の特定の部位を破壊すると、時系列がシャッフルされて認識される…、というお話でした。

玩具修理者 (角川ホラー文庫)

玩具修理者 (角川ホラー文庫)

他の人の塵理論の解釈

概要は省略、それぞれ読んでみてください。

MI's Attic ここがヘンだよ塵理論
Log of ROYGB http://d.hatena.ne.jp/ROYGB/20060304

森下一仁のSFガイド 2月11日(日) ――「塵理論」――

1/10追記

以下のグループの議論での意識の連続性の取扱が、順列都市での考え方に酷似してるなぁと感じたので追記。
コメントも含めて異常に長いですが、結構面白いです。
iwakeグループ 意識が消滅するという仮定が無謀な件

3/3追記

塵理論そのものには触れていないけれども、順列都市とリンクする複数のSFを紹介していた。
順列都市を楽しめた人なら、多分全部を楽しめるのではないかしら?
Something Orange ■[小説][グレッグ・イーガン][★★★★★]

そんな感じ。